事件紹介

2021.04.01

労働者の尊厳をかけて(事件紹介・事務所ニュース37号より)

                           弁護士 虻川高範
 Aさんは、県内でも知られたU警備保障の営業職として勤務していましたが、会社の給油カードを不正に使用したという理由で、懲戒解雇されました。そして、会社は、Aさんを被告として、その不正利用したというガソリン代約100万円を請求する訴訟を起こしてきました。
 Aさんは、給油カードの使用について厳格な規定はなかったので不正使用はなかったと主張し、会社の請求を争った上、勤務期間中の未払残業代を請求する反訴を提起し、さらに、懲戒解雇は無効であるとして会社が支払いをしない退職金を請求しました。
 裁判所が提示した和解案を会社側が拒否したため、会社の専務とAさんの上司の証人尋問が行われ、昨年6月に判決が言い渡されました。
 秋田地裁の判決は、Aさんの主張を認め、会社の損害賠償請求を棄却する一方、Aさんの残業代と退職金を支払うよう命ずるものでした。残業代の未払いについては、さらに付加金(労基法114条)の支払いも命じました。
 実は、Aさんは、会社の役員らから刑事告発もあり得るなどと執拗に追及され、やむなく不正使用を認めて100万円を支払う同意書を書いたのですが、裁判所は、同意書を作成させる会社側の行為は「社会的相当性を逸脱する行為」であり、それによって作成された同意書をもとに履行を求めるのは「公序良俗に反し、権利の濫用として許されない」と厳しく指弾しました。そして、時間外手当を認めない会社側の主張に対しても、「時間外手当請求権は、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令に従って所定労働時間外に労働に従事することによって当然に取得するもの」で「就業規則によって定められた申請方法によらなかったというだけではその支払義務は免除されない。」と指摘し、営業日報やパソコンの記録などで時間外労働を認めました。労務管理を適切にしているかのような会社でも、このように労働者の権利を蔑ろにしていることは驚くべきことでした。
 Bさんは、社会福祉法人で障害者介助の仕事を1年ごとに更新して働いていましたが、4年たった更新の時期に突然雇い止め(更新拒絶)を受けました。
 Cさんは、パン屋さんで長年チーフとして働いていたのに、突然解雇を言い渡されました。
 いずれも、労働審判を申し立て、解決しましたが、ふたりとも、解雇や雇い止めを受け、大変なショックを受けていました。
 解雇や雇い止めは、理由はともあれ、その労働者に対し、あなたは会社(組織)にとって不要です、と通告することを意味します。それは、労働者の尊厳を傷つけます。だから、解雇や雇い止めを受けた労働者は、尊厳を取り戻すたたかいに立ち上がります。その尊厳をかけたたたかいに少しでもお役に立てればと思っています。

menu